睡眠時無呼吸症候群(Sleep Apnea Syndrome:通称 SAS )

睡眠時無呼吸症候群外来のイメージ画像

睡眠時無呼吸症候群(SAS)とは睡眠中に呼吸が一時的に止まる状態が繰り返される病気です。
症状としていびき、夜間覚醒、疲労、頭痛がありますが、睡眠の質が低下することによる日中の眠気により交通事故や労働中の事故が引き起こされることがあります。
また長期にわたり繰り返されることで心臓血管系の病気や脳血管障害、生活習慣病を発症するリスクが高まります。

当クリニックでは、睡眠時無呼吸症候群(SAS)という単一の疾患だけではなく、循環器専門医として、心臓血管系への影響も含めて診察・治療にあたらせていただいております。

SASとは

睡眠時無呼吸症候群(Sleep Apnea Syndrome)は、睡眠中に無呼吸状態が繰り返される病気です。つまり、眠っている間に呼吸が止まっている状態のことをいいます。
Sleep Apnea Syndromeの頭文字をとって、「SAS」とも言われます。
医学的には、10秒以上の気流停止(気道の空気の流れが止まった状態)を無呼吸とし、無呼吸が一晩(7時間の睡眠中)に30回以上、もしくは1時間あたり5回以上あれば、睡眠時無呼吸です。
寝ている間の無呼吸に私たちはなかなか気付くことができないために、検査・治療を受けていない多くの潜在患者がいると推計されています。
この病気が深刻なのは、寝ている間に生じる無呼吸が、起きているときの私たちの活動に様々な影響を及ぼすこと。気付かないうちに日常生活に様々なリスクが生じる可能性があるのです。
日本国内のSASの潜在患者数については様々な文献で報告されていますが、2019年に報告されたものでは940万人以上と推計されています。(Benjafield AV, et al: Lancet Respir Med 2019)

SASの原因とメカニズム

無呼吸が起きる原因によって、SASは大きく2つに分類されます。
1つ目は、空気の通り道である上気道が物理的に狭くなり、呼吸が止まってしまう閉塞性睡眠時無呼吸タイプ(OSA)です。
2つ目は、呼吸中枢の異常による中枢性睡眠時無呼吸タイプ(CSA)です。

閉塞性睡眠時無呼吸タイプ(OSA)

上気道に空気が通る十分なスペースがなくなり呼吸が止まってしまうタイプです。
SAS患者さんのほとんど、9割程度がこのOSAに該当すると言われています。
上気道のスペースが狭くなる要因としては、首・喉まわりの脂肪沈着や扁桃肥大のほか、舌根(舌の付け根)、口蓋垂、軟口蓋(口腔上壁後方の軟らかい部分)などによる喉・上気道の狭窄が挙げられます。

中枢性睡眠時無呼吸タイプ(CSA)

脳から呼吸指令が出ないなどによる呼吸中枢の異常です。SASの中でもこのタイプは数%程度です。
CSAに陥るメカニズムは様々ですが、心臓の機能が低下した方の場合には約12~49%の割合で中枢型の無呼吸がみられるとされています。

SASが招く合併症

SASには、様々な生活習慣病が合併します。
睡眠は量的にも質的にも満たされていることが望ましいのですが、SASによって適切な睡眠がとれていないと身体全体に関わる生活習慣病の発生や状態の悪化に影響を及ぼすようになります。
具体的な機序はまだ解明されていないものもありますが、特にSASによる「間欠的低酸素血症」と「睡眠の分断による交感神経の亢進」の2つが大きく関与していると考えられます。
2010年には日本循環器学会からの「循環器領域における睡眠呼吸障害の診断・治療に関するガイドライン」が示され、循環器疾患とSASとの関連が重要視されました。
さらに2014年には「米国高血圧合同委員会第8次報告(JNC-8)」で、日本でも「高血圧治療ガイドライン2019」において睡眠時無呼吸が二次性高血圧の原因の1つと位置づけられています。

高血圧

高血圧の治療は「食事療法」、「運動療法」、「薬物療法」が中心になります。
まずは食事・運動療法から取り組むケースが多いのですが、それでも改善が見られない場合には薬物療法を併用する場合もあります。
しかしながら、薬物療法で血圧を十分にコントロールできない「薬剤耐性高血圧症」という病態があります。利尿剤を含む3剤以上の降圧薬を適切に用いてもなお降圧目標にまで下がらない場合が該当します。その「薬剤耐性高血圧症」とSASが特に高率で合併することが明らかになっています。日本高血圧学会や米国高血圧学会の診療ガイドラインではSASが二次性高血圧の原因疾患の1つに位置付けられています。
二次性高血圧は何か別の疾患に付随して生じているので、一般的な降圧薬が効きにくいという特徴があり、かつ原因となる疾患にうまく対処すれば血圧をうまくコントロールできる場合が多くあります。
SASによって生じている高血圧の場合、適切にSASを治療すれば高血圧の改善も望めるのです。

心疾患

不整脈の一種である「心房細動」は、日本でもたくさんの患者さんがいることが知られていますが、SASとも関連があることが明らかになっています。
ポリソムノグラフィー(PSG)検査を受けた心房細動の既往歴のない3,542例を対象にした研究では、心房細動の発症頻度がSASを合併していない場合で2.1%、SAS合併の場合で4.3%と、2倍以上もリスクが高いことが報告されています(Gami AS, et al: J Am Coll Cardiol 2007)。566例を対象にした別の研究では、重症SASの場合、SASではない群に比べて夜間の心房細動の発生頻度が4倍以上高かったとも報告されています(Mehra R, et al: Am J Respir Crit Care Med 2006)
また、冠状動脈が狭くなったり詰まったりする原因の1つに「動脈硬化」がありますが、SASが重症になるほど動脈硬化が進行するという研究報告があります(Minoguchi K, et al: Am J Respir Crit Care Med 2005)。
スウェーデンの研究によると、SASを合併している群では5年間の観察で心血管イベント(死亡・脳卒中・心筋梗塞)の発症率が合併していない群に比べて1.7倍であったことが報告されています(Mooe T, et al: Am J Respir Crit Care Med 2001)

脳卒中

脳卒中は、日本人において癌、心臓病、老衰に次ぐ死亡原因とされていますが、1,022例を対象にした約3年間の追跡研究の結果によると、SASの重症例では脳卒中・脳梗塞発症リスクが3.3倍になることが報告されています(Yaggi HK, et al: N Engl J Med 2005)

糖尿病

SASと2型糖尿病の関連性の詳しいメカニズムはいまだ解明されていませんが、SASでみられる「間欠的低酸素血症(低酸素状態と正常な酸素状態が交互に繰り返される現象)」と、無呼吸状態から呼吸が再開するときの「覚醒反応(脳が覚醒した状態)」が糖代謝の異常と関連すると推測されています(Shaw JE, et al: Diabetes Res Clin Pract 2008)
米国での研究では、SASの重症度が増すほど糖尿病の合併率が高くなることが示されましたまた、年齢・性別・ウエストまわりで補正しても、4年以内に糖尿病を発症するリスクは、AHI15以上の場合AHI5未満に比べ1.62倍であったと報告されています(Reichmuth KJ, et al: Am J Respir Crit Care Med 2005)

睡眠時無呼吸症候群の
セルフチェック

以下の8項目のうち、3つ以上当てはまる方は、一度受診いただくことをお勧めいたします。

  1. いびき:大きないびきですか?(閉めたドア越しに聞こえるまたはベッドパートナーを起こす程度)
  2. 日中の疲労感:日中しばしば疲労、倦怠感や眠気を感じますか?
  3. 他の人から睡眠中に呼吸がとまることを指摘されましたか?
  4. 高血圧ですか。または現在高血圧の治療をうけていますか?
  5. BMI(体重kg÷身長m÷身長m)が25以上ですか?
  6. 年齢が50歳以上ですか?
  7. 首周囲径:喉ぼとけの位置で、首周囲が女性の場合41cm以上ですか?男性の場合43cm以上ですか?
  8. 性別は男性ですか?

次の質問①から⑧まで眠気の程度の点数を合計してください。

日中の眠気チェック項目 決して眠くならない まれに眠くなることがある 時々眠くなる 眠くなることが多い
① 座って読書をしているとき 0 1 2 3
② テレビを見ているとき 0 1 2 3
③ 人がたくさんいる場所で座って何もしていないとき(例えば会議中や映画を見ているときなど) 0 1 2 3
④ 車に乗せてもらっているとき(1時間くらい) 0 1 2 3
⑤ 午後、横になって休憩しているとき 0 1 2 3
⑥ 座って誰かと話しているとき 0 1 2 3
⑦ 昼食後静かに座っているとき 0 1 2 3
⑧ 運転中、渋滞や信号待ちで止まっているとき 0 1 2 3
0~5点以下
日中の眠気は少ないです
5~10点
日中軽度の眠気があります
11点以上
日中強い眠気があり、睡眠時無呼吸症候群の可能性が高いです

SASの治療

治療方法には、症状を緩和させるもの(対症療法)と、根本的にSASの原因を取り除くもの(根治療法)とがあり、いずれも個々の患者さんの状態に合わせて最適な治療方法が選択されます。
一概にどの治療方法が優れているということはなく、重症度や原因に応じた治療方法が適用されます。
治療方法としては、代表的な「CPAP療法」・軽度な症状に適した「マウスピース」、根治療法の「外科的手術」があります。

CPAP療法

「Continuous Positive Airway Pressure」の頭文字をとって、「CPAP(シーパップ)療法:経鼻的持続陽圧呼吸療法」と呼ばれます。
閉塞性睡眠時無呼吸タイプ(OSA)に有効な治療方法として現在欧米や日本国内で最も普及している治療方法です。CPAP療法の原理は、寝ている間の無呼吸を防ぐために気道に空気を送り続けて気道を開存させておくというものです。CPAP装置からエアチューブを伝い、鼻に装着したマスクから気道へと空気が送り込まれます。

マウスピース

睡眠時無呼吸症候群(SAS)を歯科装具(マウスピース)で治療するケースもあります。スリープスプリントとも言われています。下顎を上顎よりも前方に出すように固定させることで上気道を広く保ち、いびきや無呼吸の発生を防ぐ治療方法です。

外科的手術

小児の多くや成人の一部で、睡眠時無呼吸症候群(SAS)の原因がアデノイドや扁桃肥大などの場合は、摘出手術が有効な場合があります。
口蓋垂軟口蓋咽頭形成術(UPPP)という軟口蓋の一部を切除する手術法もありますが、治療効果が不十分であったり、数年後に手術をした部位が瘢痕化してSASが再発することが少なくありません。

SASの検査・治療にかかる費用

検査にかかる費用

睡眠時無呼吸症候群(SAS)の検査には健康保険が適用されます。当院では、3割負担の方で2700円でSASの検査を行っております。

治療にかかる費用

SASと診断された場合の治療にも健康保険が適用になります。CPAP治療を続けるには定期的な外来受診が必要になります。
治療費用は、3割負担の方で、月4000円程度となります。